三春法律事務所 MIHARU LAW OFFICE

2020.11.28

建築

vol.18 建築設計契約についてトラブルになる原因とその防止方法は?【ハウスメーカー?建築設計事務所?】

概要

 

 今回は,世の中の人にとってかなりの確率で最も大きな買い物になるであろう住宅を購入する際に,建築士に建築設計の依頼をする場合のトラブルについて考えてみたいと思います。
 結論としては,依頼をする施主側と依頼を受ける設計者との間で,設計者の行う業務に関する価値に関する認識が共有できていないことがトラブルの原因になる場合が多い,というものになります。
 これから説明する内容(目次)は次のとおりです。

  •  1 注文住宅を建てる場合の選択肢にはどのようなものがあるか?
  •  2 設計施工の会社(主にハウスメーカー)に依頼する場合と建築設計事務所に設計を依頼する場合の違い
  •  3 代表的なトラブルの内容
  •  4 トラブルの根本原因となる認識の違い
  •  5 トラブルを回避するためには? 
  •  6 まとめ

1 注文住宅を建てる場合の選択肢にはどのようなものがあるか?

 

 建売ではなく,注文住宅を建てようと思ったときに,多くの場合は設計施工の会社(主にハウスメーカー)に依頼するということが思いつくかと思います。選ぶときにも,数あるハウスメーカーのどの会社に依頼しようか,という迷い方をする場合が多いでしょう。
 もう一つの方法としては,建築設計事務所に建物の設計を依頼し,設計した図面等に基づいて複数の施工業者に見積をとった上で選定した施工会社に建物を施工してもらうという方法があります。
 過去には後者の方法は一部の層の人が採る選択肢という傾向があったようですが,最近では一般的に選択されることも多くなっているようです。
 今回取り上げる問題は,後者の方法をとった場合,建築設計事務所と締結する建築設計・監理契約におけるトラブルです。

2 設計施工の会社(主にハウスメーカー)に依頼する場合と建築設計事務所に設計を依頼する場合の違い

 トラブルの内容を説明する前に,上記の2つの方法の違いについて簡単に説明したいと思います。建築設計契約におけるトラブルは,その違いを十分に認識していないことに起因する場合が多いため,前提として整理しておきたいと思います。
 次のような違いがあります。

①設計を行う主体と施工を行う主体が同じかどうか

 この点が本質的な違いとなりますが,ハウスメーカーや設計施工の工務店に建物の建築を依頼する場合,建物の設計を行う主体(どんな建物にするか考える主体)と,設計に基づいて建物を施工する主体(建物を建てる主体)が同一になります。
 他方で,建築設計事務所に設計を依頼する場合,建物の設計を行うのは建築設計事務所になり,施工を行うのは別の業者となります。その場合,設計者は設計したとおりに施工が行われているかどうかをチェックを行います(設計監理)。

②設計・監理費用が必要かどうか

 上記のとおり,ハウスメーカー等の設計施工の会社に依頼する場合,登場する主体は,施主とハウスメーカー等の2者になりますので,施主の費用の支払先はハウスメーカー等ということになります。
 他方で,建築設計事務所に設計を依頼する場合,登場する主体は,施主,建築設計事務所,施工会社の3者となり,施主は工事を行う施工会社の他に,建築設計事務所に対して設計・監理費用を支払う必要があります。
 この点をもって,建築設計事務所に対して設計監理費用を支払うのは高くつくのではないか?と感じられるかもしれませんが,必ずしもそうではありません。
 ハウスメーカー等においても,当然に設計を担当する人はおりますし,自社の施工に関して工事管理する業務も行われますので,その分の費用は,利益という形でハウスメーカー等に支払う費用に計上されています。
 したがって,支払先が複数になる違いがあるだけで,実質的に費用として支払う結果になることは同様です(ハウスメーカー等の利益率は一般的には高率ですので,却って高いということもままあるでしょう)。

③設計内容の違いについて

 ハウスメーカー等によって当然違いはありますが,一般的にはハウスメーカーにおける設計ではある程度画一化された仕様に基づくものになります(その分設計や施工に要する期間が短くなるというメリットはあります)。
 他方で,建築設計事務所の設計には,そうした一定の仕様になるなどの制限はなく,施主の生活状況や,土地の形状や周囲の状況にも配慮して,いわば完全オーダーメイドで行われることになります。
 したがって,設計行為に投じられるリソース(経験,労力その他)は建築設計事務所による設計の方が大きいということがいえると思います。

④施工に要する費用

 ハウスメーカー等に依頼する場合,工事の見積内容が相当なのかどうかは,正直施主側からはわからないことが多いと思います。適正な費用かどうかをチェックするすべはなく,また先述のとおり,かなりの利益が加算されていることが多いといえるのではないかと思います。
 建築設計事務所に依頼をする場合,設計図書に基づいて複数の施工業者に見積を採ることが一般的です。設計者は,各見積が適正なのかどうかを施主の目線でチェックをし,価格交渉も行い,技術力の観点も加味して施工業者の選定を行います。
 施主の代わりに適正な施工費用を判断してもらえる点でメリットがあるといえるでしょう。

⑤実際の施工におけるチェック機能

 ハウスメーカー等が設計施工を行う場合においても,当初の設計通りに施工がなされているかは自社で管理が行われることにはなりますが,あくまでも自社によるものであり,施主側の目線でのチェックが完全になされる保証はないといわざるを得ないかと思います。
 他方で,建築設計事務所が設計監理を行う場合には,実際の工事が設計図書のとおりに行われているかどうかは,設計者が施主の目線でチェックをすることになります。
 第三者の目線でのチェックが行われることにより,施工の品質も確保されやすいといえると思います。

3 代表的なトラブルの内容

 では,建築設計事務所へ設計を依頼した場合に問題となる代表的なトラブルの内容について見ていきましょう。
 多く見られるのは,建築設計・監理契約を締結し,設計業務が進んだものの,途中で施主と設計者との間で信頼関係が失われるなどして,途中で解約される場合の金銭トラブルかと思います。
 具体的には,施主側がすでに支払った設計監理についての報酬の返金を請求したり,逆に設計者側が施主に対してこれまで行った業務に対する報酬を請求した場合に,その金額の相当性が争点になってもめることがあります。
 施主側としてはまだ建物が出来てもいない状況で,プランだけ出来ていても大きな費用は発生しないと思う一方,設計者側では設計の本質的な業務は終わっているのだから費用は頂かないといけない,と考えることでトラブルになってしまうのです。
 この点は,基本的には設計監理業務のうち,どの範囲の業務がすでに終了しており,その終了した業務がいくらと算定されるのか,によって決定されることになります。

4 トラブルの根本原因となる認識の違い

総論

 
 2でハウスメーカー-等の設計施工の会社への依頼の場合と,建築設計事務所との依頼の場合の違いについて説明しました。ハウスメーカー等へ依頼するメリットが少ないように感じられたかもしれませんが,そういったことを述べたいわけではありません。
 ハウスメーカー等を選択するメリットも当然ありますので,ハウスメーカー等に依頼して住宅を建築する選択肢を採ることに全く問題はありません。しかし,3のトラブルが発生するのは,施主側において2で説明した違いを把握できていないことに原因があることが多いことから,分量をさいて説明をしたということに過ぎません。
 ハウスメーカー等を批判する趣旨は全くございませんので,その点は誤解のなきようお願いいたします。


トラブルの原因

 さて,話を戻しますと,3のトラブルが発生するのは,2で説明した違いを施主側,建築設計事務所側で認識を共有できていなかったことに起因することが多いです。
 施主側が,ハウスメーカー等との契約と建築設計事務所との契約の違いを認識していない場合,前者との契約と混同して設計者の業務を評価出来ず,支払が発生することに納得ができないということになるのです。
 設計者との契約では,設計者には2で説明したように独自の役割があります。特に当初の基本設計部分は,無からプランを作り出す行為です。もっとも労力を要するところであり,一定のプランが作成される時点で相応の対価が発生することは当然ということになります。
 他方でハウスメーカー等においてプランを作成することは無料とされていることが多いことから,ある程度プランが完成した時点で解約に至ってしまった場合,施主が費用を支払うことが不当であると感じてしまうことがままあります。
 建築設計管理契約を締結する時点で,建築設計事務所がすでにかなりの業務を行ってしまっていることが多いことも,認識の違いが生まれる原因の一つかもしれません。
 他方で設計者側も,契約内容や段階に応じて提供する成果物などを明確に説明していない場合もあり,その点が施主側との認識の違いにつながることもあります。

 このように,どちらが悪いということではありませんが,設計監理契約の本質についての認識の相違がトラブルの原因となることが多いといえるでしょう。

5 トラブルを回避するためには?

 では,トラブルを回避するにはどうしたらよいでしょうか?これをすれば絶対にトラブルにならない,という万能の方法はありませんが,設計者側,施主側において考えられる方法をそれぞれ検討してみます。

①設計側の対策

A 価値を共有する努力をすること

 

 2で説明した部分は,設計者側は理解していることでありますが,多くの場合素人である施主にはわからないことです。設計監理契約を行うことの価値,設計施工の会社に依頼をする場合と質が異なることについては丁寧に説明をすべきでしょう。
 設計監理契約をする度に必要になることですから,わかりやすい説明文書などを準備して交付するなども有効と思います。

B 契約書に不備がないようにすること

 契約ごとについて,紛争となった場合のよりどころになるのは契約書ですし,紛争を防ぐのも契約書です。
 契約書において,契約全体の金額のうち,どの金額がどの業務の対価であるのかは明示しておく必要があるでしょう。
 また,行う業務も明示しておくことが重要です。この業務をすることにこの金額の対価が必要ということが明示されていれば,お互いの認識の違いが生まれる確率を低くすることができるでしょう。

C 成果物を提供すること

 設計の仕事は,アイディアを生み出す仕事であり施主からみて価値を把握しづらい仕事です。「家」が建ったらそれに対価を払うのは当たり前と思われますが,その「家」の形を考えた,ことに対して対価を感じにくい傾向があるといえるでしょう。
 そのため,節目節目で仕事を成果物(図面や模型など)にして提供し,打ち合わせも記録化して共有し,業務の内容を把握しやすいようにすることも重要だと思います。

②施主側の対策

A 価値を理解すること

 建築設計事務所に依頼する価値を理解し,対価の具体的な中身がなんなのか理解をした上で依頼することが重要だと思います。
 ハウスメーカー等よりもちょっと格好いい,いい感じの建物が建ちそう,という感覚のみで依頼するとトラブルになる確率は高くなるでしょう。

B 契約書をよく確認すること

 契約書で設計者が行ってくれる仕事が明確になっているかよく確認しましょう。
 わからなければ契約書に書いてあるこの業務は何のことなのか,どういう業務をしてくれるのか,ということを質問するなどして,設計者が行うことを施主側もよく理解して契約を行うことが重要です。
 設計者側の項でも書きましたが,どの業務に対する対価がいくらなのか,ということを把握しておくようにしましょう。もしその対価に疑問を感じるようなら,建築設計事務所に設計を依頼する方式は避けた方がよいかもしれません。

 ほとんどの人にとって一生に一度の買い物です。納得して依頼することを心がけましょう。

 以上のようにまとめましたが,お互いの立場になって互いに尊重する気持ちをもって向き合うことが何よりも重要かと思います。
 トラブルを回避して満足いく住宅を完成させましょう。

6 まとめ

 今回は,建築設計契約に関して発生するトラブルとその原因,対策についてまとめました。
 当事務所では,一級建築士に随時相談可能な体制を整えておりますので,トラブルが発生している場合やトラブルを防止したい場合にはご相談いただければと思います(施主側,設計者側いずれの相談にも対応可能です)。
 フォームよりお問い合わせください。

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