三春法律事務所 MIHARU LAW OFFICE

2020.11.21

交通事故トピックス, 裁判

vol.17 交通事故に遭ったときに謝ったらだめなのか?

概要

 今回は,交通事故に遭った場合に謝らない方がいいのか?謝ったら不利になることがあるのか?ということについて説明していこうと思います。
 結論としては,「基本的に謝ったから不利になるということは法的には考えにくいが,ケースバイケースで謝罪の仕方には注意を要する場合がある」ということになります。
 これから説明する項目は次のとおりです。

  • 1 「不利になる」とはどういう意味が考えられるか
  • 2 謝罪の持つ意味はどこにあるか
    • ・過失割合への影響
    • ・損害額への影響
    • ・交渉がうまくいくかどうかへの影響
  • 3 事故の状況別の謝罪に対する考え方
    • ・総論
    • ・自分が100%悪いと思う場合
    • ・基本的に自分が悪いが,相手にも過失があると思う場合
    • ・五分五分に近いと思う場合
    • ・基本的に相手が悪いが,自分にも過失があると思う場合
    • ・相手が100%悪いと思う場合
  • 4 まとめ

1 「不利になる」とはどういう意味が考えられるか

 

 「不利になる」と言われてどのようなことが考えられるでしょうか。
 謝ったら不利になるのか,と考えるときに「不利」というのがどういう意味なのか,を理解して考えることは少ないのではないかと思います。
 大半の場合,漠然と不利になったら困る,というイメージではないかと思います。ここでは「不利」というものを分析してみたいと思います。
 ざっと考えてみると次のようなことが考えられます。

①過失割合が不利になる

 

 これが一般の方のイメージと近いのではないかと思います。過失割合というのは,その事故の責任がどちらに何%あるのか,という割合です。
 謝ってしまうと,過失割合が自分に不利になる,という意味が一つ考えられます。

②損害賠償額が増えてしまう

 交通事故が発生した場合,損害を与えてしまった側が損害を受けた側に対して損害賠償をしなければなりません。
 謝ってしまうと,その額が自分が不利になる,という意味も考えられます。

③交渉がまとまらず,解決が長引いてしまう。

 交通事故が起こると賠償に関して,相手方と交渉が行われることになります(ほとんどの場合保険会社が間に入ってくれることにはなります)。
 謝ってしまうことによってこの交渉が長引いてしまったり,交渉で解決せずに裁判になってしまったり,ということが,自分に不利になる,という意味も考えられます。
 

 ざっと検討してみると,このような「不利になる」という意味が考えられるわけです。これらの意味それぞれについて,謝罪をすることがどのように影響するかを次項で考えてみます。

2 謝罪のもつ意味はどこにあるか

 

 上記それぞれの意味において謝罪をすることの影響を検討してみたいと思います。

①過失割合への影響

 過失割合が協議によって決まらない場合には,最終的にはどちらかが裁判を起こして裁判官が判断することになります。
 この場合にどちらかが謝罪をしたかどうかが,過失割合に直接影響することはありません。
 過失割合は,具体的な事故状況を認定した上で,それぞれの運転操作における道路交通法等によって定められている注意義務の違反の程度がどのくらいかによって決められます。
 事故後に何を話したかによって,どういった事故状況であったかが左右されることはありませんので,事故後謝罪したかが過失割合の判断に影響することはない,ということになります。
 もっとも,ほとんどの場合にはあり得ないとは思いますが,事故後の言動を根拠に事故態様が認定されてしまう場合には,過失割合への影響がないとは言い切れないところではあります。
 しかし,理論的には謝罪の有無が過失割合に影響することはないと考えてよいと思います。

②損害額への影響

 損害額というのは,実際に事故によって生じてしまった被害を金銭的に評価するものです。
 物的損害でいえば,車両の修理費用,レッカー費用,代車費用などがあり,人身損害でいえば,治療費,通院交通費,休業損害,慰謝料などがあります。
 これらの損害について,謝罪の有無が金額に影響することは基本的にありません。
 唯一影響しうるのは,慰謝料ですが,著しく不誠実な態度が慰謝料の増額事由になるという形での影響となります。謝罪しないことのみで著しく不誠実な態度とされることは少ないと思われますが,可能性としてはありうるところです。
 ここまで読んでいただいておわかりのとおり,謝罪したことが不利になるという形ではなく,謝罪しないことが不利になる可能性があるという形での影響となります。
 したがって,謝罪したことが不利になるという意味で損害額に影響が出ることはないと考えてよいでしょう。

③交渉がうまくいくかどうかへの影響

 交通事故後の賠償交渉では過失割合についてお互いの認識が異なり交渉がなされることがあります。
 この中で,「相手が謝っていたんだから100%過失を認めていたんだ!」という形で一方当事者が全く譲らないという場合はなくはありません。このような場合,謝ったことが不利になる,といえるかもしれません。
 他方において,「全く謝らない相手の態度に納得出来ない。妥協するなんてもってのほかだ!」という形で交渉がうまくいかなくなるということも考えられます。
 したがって,謝まったことが交渉に影響することもあれば,謝らなかったことが影響することもある,ということになります。

小括

 以上より,謝罪が影響するのは主に③への影響と考えてよいでしょう。

3 事故の状況別の謝罪に対する考え方

 

 以上のとおり,謝罪の影響を分析してみました。では,実際に事故にあったときにはどのように対処すべきでしょうか。

総論

 総論的には,自分に悪い部分があるのであれば,自然に出てくる言葉で謝ることには問題はないと思います。その後への影響が気になる場合には,相手方の身体を気遣う言葉にしたり,迷惑をかけたことについて謝罪する言い方にするなど,事故についての過失に結びつけられないような言葉を選ぶようにすればいいと思います。
 では,参考のために状況別に考えてみましょう(以下は,私の個人的な考えであり,これが正しいと保証するものではありませんので,その点はご留意ください)。

A 自分が100%悪いと思う場合

 この場合は,迷わず謝ってください(笑)。謝って不利になることはないと思っていいでしょう。逆に謝らないことがトラブルになり得ます。
 なお,100%自分が悪いと思っても,客観的には1,2割は相手に過失があるという場合もあります。その場合でも謝ったから0-100なんだ,ということにはなりませんので心配はありません。
 ただし,気をつけてもらいたいのは,100%自分が悪いです,というような謝り方をしたり,全額賠償するなどの書類にサインをしたりすることはしないでください。
 もし,相手方がそういったことを求めてくるようなら,詳しいことはわからないので保険会社にお任せしたいと思います,などと説明するようにして拒否しましょう。しつこいようなら警察に間に入ってもらうようにすればよいと思います。

B 基本的に自分が悪いが,相手にも過失があると思う場合

 この場合も,Aの場合と同様謝って問題ありません。不利になるということは考えにくいところです。
 なお,いちいち「あなたにも過失がありますよね」というようなことを言って確認する必要はありません。そのあたりは後で保険会社が交渉してくれることですから,事故直後の段階では事故処理は保険会社に任せますので,という趣旨の話をしておくだけでいいと思います。

C 五分五分に近いと思う場合

 だんだん難しくなってきますね。この場合まで来ると,お互い様だろ,という感覚が強くなり,謝ることにも抵抗が出てくるかもしれません。
 しかし,全く気遣いの言葉もかけないというような対応になると,相手も人間ですから微妙な気持ちになり,2③で説明したように後々のトラブルにもなり得ます。
 したがって,「大丈夫ですか?」「お怪我はありませんか?」「ご迷惑をおかけしました」「保険会社に連絡して対応いたします」などと,こちらの過失が大きい,というような受け止め方をされないような言葉を選ぶようにするといいでしょう。

D 基本的に相手が悪いが,自分にも過失があると思う場合

 ここまで至ると,逆に相手を責めたくなる気持ちもでてくるかもしれません。あまり事故現場で相手を責めたりするのもトラブルのもとですので,声を荒げたりするのは我満しましょう。2で説明したとおり,現場で相手が悪いと認めさせることに意味はありません。逆に交渉に支障を来す場合もありえます。
 この場合は,淡々と相手方が怪我をしてないか気遣った上で,処理は保険会社を通じて話しましょう,という程度にしておくのがよいと思います。

E 相手が100%悪いと思う場合

 この場合は謝るなんてあり得ない,と思うかもしれませんが,丁寧な対応をするにこしたことはありません。余裕をもって相手方を気遣いましょう。Dと同じ対応で良いと考えます。
 なお,相手が100%悪い,と思っても,自分にも少しは過失が出る場合はたくさんあります。過失は割合はあとで協議することですので,事故直後はそのことに過度に気をとられず,事故の状況を記憶してメモしておくなどに注力し,冷静に対応するようにしましょう。

4 まとめ

 ざっくりとまとめますと基本的には人と人の間のことですので,礼節をもって対応しましょうということです。それによって決定的に不利益が起こるようなことはありません。
 却って,「謝ったらだめだ」と思って対応した方がトラブルにつながる可能性は高くなりますので,不必要に感情的になったりせずに,落ち着いて対応することを心がけましょう。