三春法律事務所 MIHARU LAW OFFICE

2021.1.10

お知らせ

vol.20 スポーツ中の事故で損害賠償をする責任はあるか?

概要

 今回は,スポーツをしているときに,誰かに怪我をさせてしまった場合に損害賠償をする責任があるのか,というテーマを取り扱っていきたいと思います。
 今回の内容(目次)は次のとおりです。

 1 スポーツ中の事故で怪我をしたりさせたりするのはどのような場面があるか
 2 スポーツ中の事故の場合の法的な責任
 3 実際の事例の紹介
 4 リスクを回避するためには?
 5 まとめ

1 スポーツ中の事故で怪我をしたりさせたりするのはどのような場面があるか

 世の中にはスポーツは数限りなくありますが,ほとんどの場合,身体への危険があります。当然事故がないように注意をするわけですが,完全にこれを防ぐことはできません。
 代表的なスポーツとしては,サッカー,野球,ゴルフなどの球技,スキー,格闘技などが考えられます。
 例えば,サッカーなどではスライディングタックルにより相手方に怪我をさせたりすることが考えられますし,野球ではデットボールによる怪我などが考えられます。スキーでは競技能力に差がある人が同じ場所にいることも多く,また高速での滑走が予定されていることもあり,事故が起きやすい類型と考えられます。
 また,格闘技は,その内容がそもそも相手に対する打撃動作を前提としていることもあり,当然怪我をすることも多くあるといえるでしょう。

2 スポーツ中の事故の場合の法的な責任

責任の内容と主体

 スポーツにおいて事故が発生した場合に,責任を負う主体には次のようなものが考えられます。
 ・競技者(スポーツをしている本人)
 ・指導者,使用者(学校の教師など)
 ・競技会等の主催者
 ・施設管理者
 ここでは,競技者の責任について取り上げたいと思います。

競技者が負担する可能性のある責任

民事上の責任

 考えられる責任としては,故意,過失によって誰かに損害を発生させた場合に,その損害を賠償しなければならないという不法行為責任(民法709条)が代表的です。
 スポーツで,わざと,もしくはミスをして誰かに怪我をさせてしまった場合には,損害賠償をしなければならない可能性があります。

刑事上の責任

 スポーツにおいて,刑事上の責任が発生する場合はあまりないですが,わざと誰かに怪我をさせた場合には,傷害罪,過失で怪我をさせてしまった場合には過失傷害罪という罪になる場合も考えられます。

スポーツにおける特殊性

 スポーツにおいては,上記の民事上の責任や刑事上の責任について,被害者の承諾があると考えたり,被害者が危険を引き受けている,という理由で責任が課されないという場合がありえます。

スポーツ事故において民事上の責任が発生する場合について

 ここでは,民事上の責任が発生する場合について考えて見たいと思います。
 上記のとおり,民事上の責任が発生するポイントとしては競技者に過失があったのかどうかがまず問題になります。
 過失があるというのは,結果を回避する義務に違反したことと考えられております。その結果回避義務が尽くされていたかどうかについては,①競技者の属性(年齢,性別,競技における経験値等),②スポーツの種目の性質(個人競技か,団体競技か,球技か,格闘技か等),③事故の原因となったスポーツの性質(競技性が強いか,親族性が強いか等)などの状況を総合考慮して判断されます。
 上記のように事情を並べてもわからないと思いますので,実例をいくつか紹介しようと思います。

3 実際の事例の紹介

(1)スキー

事例(最高裁平成7年3月10日判決。判時1526号99頁)

 スキー場において,双方がスキーの技術が上級で,事故現場が急斜面ではなく下方を見通すことができたという事実関係において,上方から滑降する者に前方を注視し,下方を滑降している者の動静に注意して,接触や衝突を回避することができるように速度及び進路を選択して滑降すべき注意義務を怠った過失があるとした事例

一言解説

 スキー場での接触事故において損賠賠償義務が発生しうることを示すものです。双方の技術や状況によって結論は異なりますし,怪我を負った側にも過失が認められて何割かの過失相殺がなされるという事例も多いと思われます。

(2)野球

事例(東京地裁平成元年8月31日判決。判時1350号87頁)

 草野球において,走者が二塁ベースにスライディングした際に,ベースを守っていた二塁手と接触して二塁手が怪我をしたという事案において,野球のようなスポーツでは,身体に対する多少の危険を包含するものであることから,その競技のルールに照らし,社会的に容認される範囲内における行動によるものであれば,損害賠償義務は発生しないと判断された事例

一言解説

 スポーツにおけるルールにおいて許容さえる範囲内の行動であれば,その行動に違法性がないとしたものです。
 他方において,故意にスパイクを向けたスライディングなどの場合には,損害賠償義務が認められることもありうると思われます。
 なお,親睦のためのソフトボールの試合中に,男性の走者がホームにスライディングした際に,女性捕手に衝突して怪我をさせた事例において,地域親睦のための男女今後の試合であったことなどを考慮して,損害賠償義務を認めた事例もあります。
 状況によって,結論が変わりうることがおわかりいただけると思います。

(3)柔道

事例(静岡地裁平成6年8月4日判決。判時1531号77頁)

 中学校の柔道部の部活動において,初心者の1年生が上級者の3年生から大外刈りをかけられて,東部を強打した結果死亡したという事案において,初心者の指導,練習においては,相手の技術の程度,身体の状態,疲労度を考慮して,受け身の取りやすい技を用いるなどの危険防止義務があると判断して損害賠償義務を認めた事例

一言解説

 柔道という身体的接触が前提とされるスポーツにおいても,当事者の技術の程度等の具体的状況によって,損害賠償義務が認められる場合もあるということになります。

(4)バトミントン

事例(東京高裁平成30年9月12日判決。)

 バトミントン教室に通っていてペアを組んでいた当事者が,ダブルスの試合中,後衛にいた加害者がバックハンドでシャトルを打ち返そうとラケットを振った際に,前衛の被害者の左目にラケットのフレームがあたったことにより,被害者が傷害を負った事例

一言解説

 判決では,加害者には前方にいる被害者の動静に注意して,ラケットが被害者に衝突しながら競技を行う注意義務があったとして,損害賠償責任を認めています。
 なお,高等裁判所では,被害者側には過失がないという判断になっていますが,第一審判決では被害者側にも過失を認めており,判断が難しい事例であったことが窺われます。

4 リスクを回避するためには? 

 3で説明したとおり,スポーツ中に事故があった場合,状況によって損害賠償義務が発生することは十分にありうるところです。
 特にバトミントンの事例などは,日常的にありうる事故であり,突然多額の賠償責任を負うことになってしまうことにもなりかねません(バトミントンの事例は1300万円)。
 こうしたリスクに対応するには,自動車の運転同様,適切な保険に加入しておくことが重要です。
 個人賠償責任保険や,自動車保険における特約として対応できる保険がありますので,日常的にご自身やお子様がスポーツをされる場合には保険内容を確認したり,必要な特約の加入を検討することが必要と思います。

5 まとめ

 以上のように,スポーツでは思わぬ責任が発生してしまう可能性があります。万一のリスクに備え,保険契約を確認したり,加入を検討することが求められます。
 いくつか事例をあげたとおり,評価が難しい場合も多いですので,スポーツ事故で怪我があり問題となった場合には,一度ご相談されることをお勧めいたします。お気軽にご相談ください。
 本記事を作成するにあたって,「紛争類型別 スポーツ法の実務」(多田光毅ら編著,三協法規出版)を参考にさせていただきました。