三春法律事務所 MIHARU LAW OFFICE

2020.10.17

ブログ, 裁判

vol. 15 わざとではなく嘘をつくことはある?

概要

 今回は,人がわざとではなく嘘をつくということがあるか?というテーマを取り上げてみようと思います。
 結論としては,上記の答えは「大いにある」ということになりますが,過去の文献に紹介されていた例をご紹介して,ご説明していこうと思います。 

1 相手は嘘をついている!

 裁判ではお互いの言い分が食い違っていることがよくあります。私に依頼してくれた方が,相手方が全く事実と違うことを言っている,嘘をついている,と怒っているケースは何度も体験しています。
 依頼者の方は,「相手はなんで嘘をつくのか?」「自分に有利になるように事実と異なることをいってけしからんやつだ!」と言うわけです。依頼者にとって体験している事実は一つだからそういう言い分になるのはもっともなことです。
 実際に,客観的に起こった出来事というのは一つしかないので,それと違うことは嘘ということになりそうです。

2 ある出来事についての記憶に関する実験

 記載のあった文献が見つからなかったのですが,私のメモによるとエドガー・ジェイムズ・スウィフトの「心理学一日一課(1918年)」からの紹介です(古いですが…)。
 29名の学生に対して,サプライズで授業中に次の芝居を行いました。

  • ・廊下から口論が聞こえたと思うまもなく,突然4人の学生(2人が若い男性,2人が若い女性)が教室の中に駆け込んでくる。
  • ・R(女)は部屋に入るとすぐ茶色の紙包みを床に落とす。K(男)は手に一本の黄色のバナナを持ち,それをピストルであるかのように振り回し,他の連中ともみ合いながら部屋を横切り,教授が座っていた反対側のドアの方へやってくる。
  • ・教授は立ち上がり,授業の邪魔をしたことに抗議する。立ち上がる際にかんしゃく玉を床に投げつける。
  • ・教授は「打たれた」と叫びながら後ずさりし,R(女)に抱きかかえられる。
  • ・そして,その後,4名はドアから逃げ出していくが,T(女)はそのついでに,R(女)が落とした茶色の紙包みを拾っていく。
  • ・全部で30秒程度の出来事です。

 登場人物4名のうち,3名はそのクラスの学生で,Rは有名な上級生でした。つまり29名全員が4名のことを知っている状況でした。
 このあと,29名の学生に対して,何が起こったのかを逐一書くように指示し,報告書で提出させました。

3 驚きの(?)実験結果

 上記の実験の結果は次のようなものでした。

  • ・4名の登場人物が部屋に入っていたことを記憶していたのは3名
  • ・4名が誰であったか全員見分けた者は一人もいない。
  • ・大多数の学生は,出来事を「暴徒」あるいは「群衆」の事件というふうに描写
  • ・4名のうち,3人を見分けた者は7名
  • ・2人を見分けたもの11名
  • ・1人だけ見分けた者7人
  • ・1人も見分けられなかったものが4人
  • ・8人が,演技に参加していなかった人物のみならず,その場にいなかった人物を「見た」
  • ・そのうち一人は3箇月前に退学していたクラスメイトを「見た」
  • ・一度もクラスに入ったこともなく現場にもいなかった女性を2人が「見た」
  • ・茶色の包みに言及したのはたった1人
  • ・T女が拾ったところは誰も見なかった
  • ・数人の学生はピストルの閃光を「見た」
  • ・1人は彼らが一人の男性の黒い長髪を掴んで引き留めようとしていたと記載(演技者の一人は明るい色の髪。もうひとりの男性は短髪)
  • ・報告書の中の5通は,真実に合致する箇所が一つもなかった

4 人間の記憶はとても曖昧なもの

 実験結果を見てどのように思ったでしょうか。こんなに特徴的な出来事だったら,もっと覚えているだろう!と思ったかもしれませんね。しかし,私もこういう出来事があるから記憶しておこうと事前に構えていない限り,ほとんど覚えていられない気がします。事前に構えていた場合ですら自信はありません。
 この実験結果からわかるように,人間の記憶はとても曖昧なものであり,わざと嘘をつこうと思わなくても,結果的に事実と違うことを話す,ということは大いにあり得ることです。
 みなさんも,嘘をつくつもりもなく,事実と違う記憶をしていることがあるかもしれませんね。

5 嘘をついていると思ったときほど冷静に

 上記のとおり,自分にとって相手が嘘をついていると思ったときは,少し立ち止まって考えて見るといいかもしれません。

  • ・それは本当に嘘なのか
  • ・相手にとっては本当に起こったことだ認識しているのではないか
  • ・そうだとしたら,なぜ相手はそのように認識しているのだろうか

 このようなことを考えると,怒る以外の効果的な対処方法が見えてくるかもしれませんね。

6 裁判では証拠が大事

 上記のように人の話というのは極めて曖昧なものですから,裁判では証拠が何より大事ということになります。
 どんなものが証拠になるのか,など疑問に思ったらお気軽にご相談ください!